ノルム保存型擬ポテンシャルデータベース(NCPS2K, NCPS2K+)の説明

本ページは全面改訂中です。以下の文章は今後大幅に変更されます(8/25、2003)(11/22、2019、微修正)(9/25、2023、修正)。

(本データベースの再配布は禁止します。)
[配布情報][English][English(旧版)][CD-R説明][Top]
(*)連絡先[参照]
(旧版)www.bandstructure.jpへ
目次 [先頭][Top]
はじめに
ポテンシャルとは
このポテンシャルデータの良い点
本論
具体的なデータの内容)
(イ)作成された擬ポテンシャル
(ロ)データの内容
....(1)s、 pのみNon-localな場合
....KB分離型
....補足: (4*PAI)1/2 *rの問題
....(2)s、 p、dがNon-localな場合
....(3)PC C用ファイルについて
....(4)希土 類の擬ポテンシャルについて
(ハ)データの運用
(ニ)データの収録形式
まとめ
謝辞
(参考文献)
(参考ウェブページ)
付録 ローカルポテンシャルVcoreのパラメーター
....更新情報
....連絡先

はじめに[目次]

1995年度にノルム保存型擬ポテンシャルデータベースNCPS95の作成、配 布を開始してから、既に9年の歳月が経とうとしている。その間、NCPSも、 NCPS97、NCPS2Kへと版を更新することができ収納している擬ポテンシャルも、 水素からラドンまでの周期表上の元素を全て網羅(但し、希土類元素を除く) することができる状態となった。
更に、2004〜2005年度にかけてマイナーなバージョンアップながら NCPS2K+へ版を進めることとなった(実質は、NCPS2Kのままである)。今回は 特にドキュメント面での整備を中心に考え、分かり難かったデータベースの説 明の明確化、簡素化を試みた。しかしながら、NCPSは未だ完成したものになっ ているとは言い難い。希土類元素への拡張は未だ達成されていない。また、現 時点でもNCPSの配布は、CD-R媒体によるもので、これには事前の申し込み等の 手続きが必要となっている。
このポテンシャルに対応したバンド計算プログラム(SANZENのasseなど)さ えあれば計算機資源と時間の許す範囲で、任意の組合せで構成される多様な結 晶構造をもった物質(未知物質も計算可能)の電子状態や構造最適化を行なう ことができる。以下、NCPS2Kの簡単な特徴を示す。

ポテンシャルとは [目次]

擬ポテンシャルは物質の性質を担うのは多くの場合、原子の価電子であると いう考えから生まれたものである。つまり原子の内殻電子(core-electron) は価電子に影響を与えず、その物質の性質の決定にも寄与しないと仮定し価電 子のみからポテンシャルを作ったものである。この仮定は特別な場合を除き固 体物理学(物性物理学)の分野では正しい。
擬ポテンシャルを使用する利点は、
(α)価電子のみなので浅い滑らかなポテンシャルを作ることができ、これに よりバンド計算での基底関数を平面波にすることができる。基底関数に平面波 を使用すると、力や圧力の計算のための記述が簡単になり、バンド計算上での コード化や計算実行が比較的容易となる。
(β)扱っているのが価電子の部分だけなので、全エネルギーの桁数が all-electronの場合よりずっと少なくてすみ、エネルギー同士を比較して構造 安定性を議論する場合有利になる。
(γ)all-electron計算において、線形化により生ずるゴーストバンドの問題 がなく、正しいポテンシャルを使用すれば、1Ry以上の広いエネルギー範囲 でも1度に計算できる。但し擬ポテンシャル+平面波の計算でも、KB近似 [1]による、別の意味でのゴーストバンドは存在する。
(δ)擬ポテンシャルを用いたバンド計算手法では、いわゆる格子間領域が存 在せず、その意味で完全なfull-potentialである。
などが挙げられる。

史 [目次]

1970年代までは、実験結果に一致するようにした経験的な擬ポテンシャ ルが使われていたが、この場合擬ポテンシャルを使ったバンド計算では電荷密 度分布が他のall-electron型のバンド計算(APW法など)と一致しないなど の問題があった。
本サイト(NCPS2K)で扱っているものは1979年、 Hamman,Schluter,Chang[2]によって提案されたノルム保存型擬ポテンシャルで ある。これは第一原理的に求められたもので、実験データに何等依存していな い。このポテンシャルの特徴は、その名にもある通り設定したカットオフ半径 (切断半径)の内側で波動関数のノルムが、原子の全電子計算の結果と一致し、 カットオフ半径より外側のポテンシャルと波動関数(擬波動関数)が原子のも の(これを真の波動関数とする)と一致するように作られたものである。詳し い内容は参考文献(BHSの論文)[3]を参考にして欲しい。
このデータベースの擬ポテンシャルは一部を除いて、ノルム保存型擬ポテン シャルの改良版であるTM型の最適化擬ポテンシャル[4][5]を用いている。こ のポテンシャルはノルム保存等の条件はBHS[3]のものと同じだが、基底関 数としての平面波の数をなるべく減らすように工夫されたものである。この詳 しい内容もTMの参考文献[4][5]を参照して欲しい。
更にその後、ウルトラソフト擬ポテンシャル[6]などの改良、拡張が行なわ れている。但し、本データベースではウルトラソフト型は扱っていない。
概要説明
NCPS95 - 2K+を使ったバンド構造例:[NPT-NCPS95]。
格子定数、体積弾性率の例:[TableI][TableII][TableIII][TableIV][TableV](pngファイル、5〜23KB程度)。

ポテンシャルの波動関数に関する対数微分も幾つかの場合に計算している。 これはtransferabilityのチェックのために使用されるが、求めたものでは Fermi面近傍の適当な範囲で擬波動関数と実波動関数の対数微分の一致は良い。

バンド構造に関しては、Fermi面より1Ry程度以上の 領域でのバンド構造の正しさは保証できない。 本擬ポテンシャルデータベースの特徴
無保証
このポテンシャルはバンド計算用で、単なる数値データの羅列に過ぎず、そ れ以外の目的には何の役にも立たない。また使用するためにはこのポテンシャ ルに対応したバンド計算プログラムが必要である。また、これはいまのところ KleinmanBylanderの分離型(8)にしか対応していない。
現段階では、これらのポテンシャルは試作品であり、常に正しい結果を与え る保証は一切ない。特に、transferabilityの問題で、バルク以外の複雑な化 合物、結晶構造、表面、クラスター等の問題を正しく扱えるかについては、実 際に計算してみないとわからないと言える(前述のSrTiO3は好例)。 ポテンシャルを作った時期によるコア半径等のパラメーターの取り方から、ポ テンシャルの正確さにも若干むらがあり、非常に精度の良いものと、それ程で もないものがある。
免責
正しい結果を与えなかった場合や、これらの擬ポテンシャ ルデータの使用に関する一切の不利益に関して当方(筆者)及び物質・材料研 究機構(含む旧無機材研)は責任を負わないものとする[参照1][参照2]。
このポテンシャルデータの良い点 [目次]
【いろいろ問題点を書いたが、良い点もある】
まず第一に、KB型分離形[1]に対応し、分離形を使用することでの最大の問 題であるghost bandが出ないこと(少なくともフェルミエネルギー上の1Ry 程度の範囲まで、それより上では保証の限りでない )をバンド計算により確認し、格子定数、体積弾性率等の物理データ が実験データと妥当な精度(一部合わないものも存在)で合うことも確認して いる。これについては参考文献[7][8][9]などを参照して欲しい。本データベー スを使った最近の計算例に関しての参照[ページ ]。

必要なもの対してはPCC(部分内殻近似)[10]を導入している。考慮され ているのはLi,Be,Na,Ga,Inと3d、4d、5d遷移金属の全てである(強磁性 を示すFe,Co,Niでは重要)。これにより格子定数が短めにでることと、強磁性 における磁気モーメントの過大評価が改善される。
all-electron部分の原子の計算では交換相関項を除いて相対論効果[11]を考 慮してあるので、valence(価電子)しか取り扱わない擬ポテンシャルでは相 対論効果(Scalar relativisticな範囲で)は十分に考慮されている。当然、 スピン‐軌道相互作用は考慮されていない。

このデータベースのデータを使用して、初めてバンド計算を行なう場合は、 Si,Al等の比較的扱いやすいもので、十分なテスト計算を行なうことを推奨す る。本データベースが使用可能なバンド計算プログラムとして、(旧)第一原 理反応グループのメンバーである新井氏のasseがある(←推奨:asseの案内ペー ジ参照←アクセス不可)。Si、Alのみの系(シリコンならダイヤモンド構造、 アルミニウムなら面心立方構造が良い)なら、通常のPC(Pentium 4以上)上 でも楽に計算可能である(数十個程度の規模の計算も可能)。ただし単独のPC 上では、Si,Al以外の難しめな原子(第二周期の元素、遷移金属等)を扱う場 合はせいぜい数個から十数個程度位しか計算できない。

本論 [目次]

具体的なデータの内容)

(イ)作成された擬ポテンシャル

これに関しては周期表[NCPS2K+]を参照 して欲しい。色付けによってそれぞれの元素に対応する擬ポテンシャルの持つ 情報(TM型、BHS型、PCC考慮、非考慮、内殻部分の扱いなど)が分かるように なっています。
  1. Li,Be,Na,Ga,In,3d、4d、5d遷移金属(含む、Cu,Ag,Au)に関して はPCC(Partial Core Correction(13))が考慮されているものと、そうでな いものと2種類用意してある、PCCが考慮されているポテンシャルはディレ クトリ名にPCCがついている。
    K,Ca,Rb,Srに関しては、PCCを考慮したものと、それぞれ3p(K,Ca)、 4p(Rb,Sr)を価電子とみなして作られたものとが両方用意されている。それ ぞれディレクトリ名にPCC,3p,4pと識別するための付加名がついている。
    加えて、アルカリよりもより浅い内殻軌道を持つ、Ga,Inについても、それ ぞれ3d、4dを価電子とみなしてポテンシャルを作っている。これらにも Ga_3d、In_4dのように付加名が付いている。
  2. 主に遷移金属、貴金属のポテンシャルは、s、p、dがNon-localとなる。 それ以外はs、pのみがNon-localとなり、dポテンシャルがLocalとなる。現 在のポテンシャルでは遷移金属ではなくてもs、p、dをNon-localにしたも のがある。これは収録されているファイル数と内容から判定できる。
  3. s、p、dがNon-localとなる場合は、BHSが言うところのVcore(r) (Vcore(r)の表式〔←新井氏のページ:既にアクセス不能〕)がLocalポテンシャルとなる。但し、パラメー ターは異なる。パラメーターは最後の付録で表にしたので参照して欲しい。
  4. Li,C,Oのポテンシャルは東京大学物性研究所寺倉研究室の森川良忠氏 (現融合研研究員)に作成してもらった。
  5. Li,Ca(前述のCa_3p版)には東大物性研の常行研のグループが作成した ものがある。これらにはディレクトリ名にISSPという名が付加されている。
  6. TM型の擬ポテンシャルの作成用のFORTRANコードは(4)の森川氏によっ て作成された。(擬ポテンシャル作成のためのall-electron用の原子ポテンシャ ル計算プログラムは長谷川彰先生によって作成されたものある。)
  7. all-electronの計算はKoelling and Harmon(14)によるもので、Scalar relativisticな効果を考慮してある。
  8. 交換相関効果はWigner(6)の形式を使用(このため交換相関項に関しては 相対論補性は考慮されていない。)、一部MJWやPerdew、Zunger(7)による ものもある。
  9. 重い原子に対してSpin-orbit効果は考慮されていない。
  10. 密度勾配の補正(GGA)(5)は行なっていない。

(ロ)データの内容 [目次]

基本的に1つないし2つのファイルから構成される。各数値の単位はAtomic Unit単位であり、1 a.u. = 27.2 eV(エネルギー)、1 a.u. = 0.529177A(長 さ)である。

(1)s、pのみNon-localな場合

例えば炭素の場合、以下の2つのファイルがある。
CKB.DAT CD.DAT
CKB.DATはNon-local s、pのポテンシャルが入っている。以下に、データ の先頭部分を示す。

    421     0      0.0104166666666667
  0.387120133174D+00 -0.115786648758D+00
  0.119684022029D-03  0.123483200711D-03  0.127402978271D-03  0.131447182927D-03
  0.135619764419D-03  0.139924797866D-03  0.144366487744D-03  0.148949171993D-03
  0.153677326257D-03  0.158555568247D-03  0.163588662261D-03  0.168781523830D-03
  0.174139224519D-03  0.179666996885D-03  0.185370239581D-03  0.1912545
最初の421の値は動径方向のlog-mesh(対数メッシュ)の数である。次の 0はダミーパラメーターで意味がない。3番目の0.0104166666666667は log-meshでの刻幅である。これはlog-meshに関する積分をする時に必要である。 この値はlog-meshを積分する時、後述するr3(rの3乗)とする ことで、等間隔な積分が可能となる。現計算での刻 み幅では、シンプソンの公式を考えているので、実際の刻み幅の1/3の値に なっている。1/3の値が先の0.010416666....である。

(log-meshの定義)
r(log-mesh)=rmax*(exp(h))N/(exp(h)421)

r(log-mesh):動径方向の対数メッシュによる座標、N:1〜421の任意の 数、rmax=60.0a.u.、h=1/32.0である。N=421(動径方向座標の全メッシュ数) の時、r(log-mesh)=rmaxとなる。この定義から、原点近傍ほどメッシュの間隔 は狭くなり、原点から遠方になるほど間隔は広くなっていく。また動径方向で の積分では直交座標から極座標への変換で出てくるr2(rの二乗) がr3になることに注意。

次に2行目にある4、5番目の値はKB分離型での分母の値である。それ以 降、421個分の動径座標(対数メッシュ:log-mesh)の値、KB分離形の分 子(擬波動関数×非局所擬ポテンシャル:[補足]) における、Non-local s部分の値、同じくNon-local p部分の値がそれぞれ42 1個ずつ続く。



  [CNKB.DAT](データの構成)

  Head data(先頭にある5つのパラメータ、2行分)

  421 data (core radius) ← 半径座標(ログメッシュ、421個)

  421 data (s)           ← 非局所擬ポテンシャルのs部分(421個)

  421 data (p)           ← 非局所擬ポテンシャルのp部分(421個)

KB分離型 [目次]

Y_s(R) :sの擬波動関数、Y_p(R) :pの擬波動関数

VNL_s(R) :Non-local sポテンシャル
VNL_p(R) :Non-local pポテンシャル

Non-local sのKB分離型
|VNL_s(r)|Y_s(r)><Y_s(r)|VNL_s(r)|/<Y_s(r)|VNL_s(r)|Y_s(r)>

Non-local pのKB分離型
|VNL_p(r)|Y_p(r)><Y_p(r)|VNL_p(r)|/<Y_p(r)|VNL_p(r)|Y_p(r)>

CKB.DATではNon-local s,pに関して、上記式の分子部分 |VNL_s(p)(r)|Y_s(p)(r)>(擬波動関数×非局所擬ポテンシャル:[補足])が格納されている。Non-local部分は、s、pの 擬ポテンシャルからlocalとして考えるdのポテンシャルを差し引いたものが なる。

VNL_s(r)=V_s(r)-V_d(r)
VNL_p(r)=V_p(r)-V_d(r)

(注意)上記、擬波動関数×非局所擬ポテン シャルにおける、(4π)**(1/2)*r、(** (1/2):1/2乗の意)に関しては、

P_s(r):真の擬波動関数

Y_s(r)*Y_s(r)=4*PAI*P_s(r)*P_s(r)*r*r

積分:Y_s(r)*Y_s(r)*r*h = 積分:4*PAI*P_s*P_s*r*r*r*h = 1 (規格化)

である。p(l=1)、d(l=2)の場合も同じ。PAIはπのことである。

(補足)
実際のデータ作成では、擬ポテンシャルの非局所部分は、KB分離形として 擬波動関数×非局所擬ポテンシャルという形になっている。この時使用される 擬波動関数は、Y_s(r)である。このY_s(r)は、Y_s(r)*Y_s(r)というかけ算の 形で考えると、4*PAI*r*rが含まれているように設定されている(上記注意よ り)。座標点rは個々の動径方向の積分で問題となるが、4*PAIの部分は、実際 のバンド計算においては、[波動関数×擬波動関数×非局所擬ポテンシャル] 同士のかけ算が行なわれ([]:実空間での積分処理等を意味する)、擬波動 関数×非局所擬ポテンシャル部分が単独で計算結果に影響を与えることはない。 この[波動関数×擬波動関数×非局所擬ポテンシャル]同士のかけ算の過程で、 擬波動関数×擬波動関数(Y_s(r)*Y_s(r))に相当することが行なわれ、この 過程の中に、4*PAIが暗黙の内に含まれていることとなる。
従って、実際のKB分離形での、擬波動関数×非局所擬ポテンシャル部分の 動径方向に関しての積分では(実空間→逆空間への変換)、

Int[VNL_s(r)*Y_s(r)] → 積分:(VNL_s(r)*Y_s(r))*r2 となり、Y_s(r)が座標rを含むので、全体として上記の積分は、 r3となる。
4*PAIは、上述の様に、[波動関数×擬波動関数×非局所擬ポテンシャル] 同士のかけ算により暗黙の内に出てくるが、これはKB分離形の分母部分で同 じく出てくる4*PAIにより打ち消されるため、実際の計算では陽に出てくるこ とはない。但し、KB分離形全体にかかる4*PAIは、実際の計算では、かけて おかねばならない。つまり、KB分離形全体の表式、

4*PAI*(2l+1)*P_l(cosθ)*〔(KB分離形分子)*(KB分離形分子)〕/ (KB分離形分母)

P_l(cosθ):ルジャンドル多項式

で、〔(KB分離形分子)*(KB分離形分子)〕、及び(KB分離形分母) のそれぞれに4*PAIが暗黙に含まれているが(それぞれ単独でも4*PAIは陽には 出てこないことに注意)、これは互いに打ち消される 。そして上記表式先頭の4*PAIだけが残る。
(9/29、2000:注意)上述の、分 子、分母で、”互いに打ち消される”という のは間違いです。互いに打ち消すのではなく、擬波動関数は (4*PAI)1/2を含んだ形で規格化されているので、分子にある2つ の擬波動関数は、〔(KB分離形分子)*(KB分離形分子)〕という形で積 の形になっていて、4*PAIを含んだ上で規格化されています。従って、〔(K B分離形分子)*(KB分離形分子)〕から、新たに4*PAIが出てきて、上記の4*PAI*(2l+1)*P_l(cosθ)が、 (4*PAI)2*(2l+1)*P_l(cosθ)とはなりません

別の言い方をすると、KB分離形を作る場合、実空間から逆空間へのフーリ エ変換が必要で、このために実空間に関しての積分計算を伴います。この積分 で、4*PAIが出てくるため、〔(KB分離形分子)*(KB分離形分子)〕の積 により、(4*PAI)2が出てきますが、この内の4*PAI分は、KB分離 形の分子部分にある二つのY_s(r)が含む、(4*PAI)1/2により打ち 消されます(KB分離形分子部分では、Y_s(r)は互いに別々の動径方向の積分 に含まれているが、これは積分全体にかかる係数になっているので、それぞれ の係数の積として4*PAIとなると考えて問題ない)。
(4/4、2013)上記4*PAIに関する記述は、考え方に誤りがある可能 性が高くなりました。ただ(最終)結果には影響はありません。現在、更なる 検証を進めています。
CD.DATにはd(l=2)の擬ポテンシャルと、それからVcore(r)を差し 引いたものが(それぞれ421個ずつ)主なデータである。
データの形式はCKB.DATとほぼ同じである。但し、最初の4番目と5番目に 相当するデータがCD.DATにはない。そしてlog-meshの座標の値の後に、V_d(r)、 V_d(r)-Vcore(r)の値がそれぞれ421個ずつ続く。
V_d(r)-Vcore(r)の形式のデータの存在は、Local部分のフーリエ変換の際、 動径方向の積分がV_d(r)だけではrの大きいところでの-Z/rに関する積分の精 度が悪く。これについてはBHSによるVcore(r)が解析的に積分ができる ので、rの大きいところはVcore(r)で解析的に積分し、rに関する数値積 分の部分はV_d(r)-Vcore(r)に関して行なうために、このようなデータ形式と なっている。

(2)s、p、dがNon-localな場合 [目次]( 注意〔2/16、2016〕)

ファイルの数は1つに減る。(1)でのLocal dポテ ンシャルに関するデータが必要なくなるためである。Non-local s、p、dは 以下のように記述される。

VNL_s(r)=V_s(r)-Vcore(r)
VNL_p(r)=V_p(r)-Vcore(r)
VNL_d(r)=V_d(r)-Vcore(r)

Vcore(r)はBHSによるもので、(1)で説明し たものと基本的に同じである。Vcore(r)を記述するパラメータは、基本的 にLocal potentialの取り方は任意であるので、ghost bandが出ないように数 値を設定した。
Non-local用のデータは(1)のものに対し、 Non-local dの部分が加わっただけである。

(3)PCC用ファイルについて [ 目次]

主にアルカリ金属や遷移金属のものを中心に、PCCに対応した擬ポテンシャ ルがあり、PCC用の電荷密度に関するデータファイルが存在する。ファイル の内容は421点分のlog-mesh座標ファイルと、電荷密度のデータ(421点 分)が順に記述されている。ポテンシャルファイルと異なるのは各データに1、 2、3、、、421と番号が付随していることである。
またこの電荷密度の値には4πr*r*rがすでにかけてあるので注意が必 要である。特に逆格子空間に変換するためにlog-meshに関して積分する時。

(4)希土類の擬ポテンシャルについて [目次]

現バージョン(旧バージョンも)は対応していない。

(ハ)データの運用 [目次]

本データベースに対応したプログラムコードとして現在、"asse"が存在する。 Asseの詳細は、[asse](現在、アクセス不可)を参照して欲しい。このコード は、(旧)第一原理反応グループの新井氏によるものである。尚、asse、 NCPS2K+共により上位にあるsanzen(2023年3月末で閉鎖)の傘下にある ものだが、お互い独立性の高いものになっている。
asse以外の公開コー ドで、このデータがそのままで使用可能なコードは現在存在しない。

筆者の使用するプログラムコードが、本データベースに最も対応しているが、 公開版は存在しない。 諸般の事情から現時点で、 全面的な公開版を出す予定はない。ただ多くの部分は、公開ルーチン に存在し、参考になると思われる。

参考のために、本テキストがあるディレクトリ上に、ps_input.fというファイルを置いた。これはデー タベースにある擬ポテンシャルデータを読み込み、フーリエ変換して逆空間表 示にするサブルーチンのサンプルである。最初のサブルーチンPSEUDOはLocal な擬ポテンシャルを読み込むもの、二番目のサブルーチンKBMATは、Non-local な擬ポテンシャルを読み込んでいるルーチンである。本データベース利用の一 助にしてもらうと大変有難たい。
更に、擬ポテンシャル作成プログラムで、作成したポテンシャルデータを元 にしてKB分離形式に変換して、データを出力するプログラムをここに示す。この出力結果が本擬ポテンシャルデータ となっている(先の、ps_input.fで読み込まれる形式になっている)。

尚、このデータベースを使用することによって、幸運にも何らかの成果を得 て発表(口頭、論文等)する場合、出処(物質・材料研究機構のNCPS2K +を使用の旨)を明記してもらうと大変有難い。出 処に関しての参考文献として[15][16]を挙げて おく(引用はいずれでも構わないが、より新しい方を推奨)。また製作者にも 成果を発表したことを知らせて(別刷を送って)もらうと尚有難い。ただこれ はデータベースが試用版でもあり、上記要請を実践してもらうことを強く希望するが、強制するものではない。

(ニ)データの収録形式、配布 [目 次]

現在のデータベースは試用版である。収録媒体はCD-Rであり、フォーマット 形式はJoliet形式である。Windows95,98,Me,Xp,2000,NT(ver4.0以上)、Linux 系OSの比較的新しいバージョンなどで読み込み可能である。またWindows OS上 では自動インストーラーが起動するようになっている。インストーラーを起動 させたくない場合は、shiftキーを押しながらCD-Rをドライブ装置に挿入すれ ばよい。
CD-Rは現在配布中である[詳細 説明ページ]。

まとめ [目次]

このデータベース作成の主旨は、KB分離型でゴーストが生じないノルム保 存型の擬ポテンシャルを用意し、それを公開、提供することである。更にこれ は将来の物質設計(未知物質探索)のために必要な基本的なデータを整えるた めの第一歩と言える。
現実には大規模な計算機資源が利用できたとしても、第一原理計算のみで扱 える系の規模は、せいぜい数百〜千原子程度である(2004年現在)。実際 にはより小さな系の構造最適化や局所的な安定構造を求めたり、その電子状態 を求めることとなる。産業的に供することが出来るレベルの物質設計や未知物 質探索がそう簡単にきるわけではない。まずは基礎的な研究、計算を蓄積し、 より精度が高く、効率の良いバンド計算方法、アルゴリズムを開発していく必 要がある。当然、ポテンシャルもより良いものへと改良していく必要がある。

現時点で、水素からラドンまでの(希土類元素を除く)原子のためのポテン シャルを用意した。Transferabilityや、一部の擬ポテンシャルでバルクの格 子定数が2%以上ずれるなどの問題が依然として残っているが、基本的にはい ろいろな環境下(複雑な化合物、欠陥、不純物、界面、表面等)で、これらの 元素に関しての任意の組合せによる、未知、既知の物質の電子状態および構造 の最適化が可能であり、物質の構造予測、化学的な反応予測、物性予測などが 将来可能となるだろう。

多くの研究者が、このデータを使って将来新しい物質を設計、予測するため に利用されることを期待する。

尚、このバージョンは試用版であり、他の研究機関、グループ等への再配布 はしないでください。また、このデータの使用により生ずる直接、間接の被害、 損害、不利益、不具合に対して、当方(データベース製作者、物質・材料研究 機構、旧無機材研)は一切責任を負いません。また、このデータを直接、間接 に関わらず悪用することを禁止します。またこのデータベースをもとにして、 悪用することを目的としたいかなる行為、およびそのためのデータベースの利 用を禁止します(関連ページ)。

謝辞 [目次]

既にいくつかのグループ、研究者(2003年現在では、物質・材料研究機 構新井正男氏、東京理科大学の渡辺先生のグループ、大阪大学の広瀬先生のグ ループなど)にこのデータベースを使ってもらってる。また本文でも記したと おりこのデータベース作成に必要なTM型擬ポテンシャル作成プログラムは融 合研の森川氏によって作られた(原子の計算部分は長谷川彰先生によるもの)。 また、相対論を考慮した全電子原子計算プログラムは新潟大学の長谷川彰先生 が作成したものである。
本データベース作成において新井氏及び常行先生の助言と励ましに深く感謝 します。
また、擬ポテンシャルに関しての種々のテスト計算は、本研究所にある科学 技術計算サーバー(旧DECのAlphaServer2100 4/200、HPのAlphaServer GS140)、東大物性研にあったFACOM VPP500、原研のVPP300 などの計算機資源を利用した。

(参考文献) [目次]

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(2) N. Troullier and J. L. Martins, Solid State Commun. 74, 613(1990)
(3) D. R. Hamann, M. Schluter and C. Chiang, Phys. Rev. Lett.,43(20), 1494(1979)
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(5) A. D. Becke, Phys. Rev. A38, 3098(1988): J. P. Perdew, Phys. Rev. B33, 8822(1986)
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(9) K. Kobayashi, The proceeding of International Workshop on Computer Modeling and Simulation for Materials Design, 1996
(10) K. Kobayashi, Y. Morikawa, K. Terakura and S. Blugel, Phys. Rev. B45, 3469(1992)
(11) K. Kobayashi, K. Kokko, K. Terakura and Y. Matsui, Computer Aided Innovation of New Materials II, 121(1993)
(12) K. Kobayashi, Advances in New Diamond Science and Technology, 255(1994)
(13) S. G. Louie, S. Froyen and M. L. Cohen, Phys. Rev. B26, 1738(1982)
(14) D. D. Koelling and B. N. Harmon, J. Phys. C: Solid State Physics 10, 3107
(15) K. Kobayashi, "Norm-conserving pseudopotential database(NCPS97)", Computational Material Science 14, 72(1999)
(16) K. Kobayashi, "A Database for Norm - Conserving Pseudopotential (NCPS2K): Application to rare gas atoms", Materials Transactions, Vol. 42, No. 11 (2001) 2153

(参考ウェブページ) [目次]

付録 ローカルポテンシャルVcoreのパラメーター [含む追加パラメーター][目次]

α1、α2、c1はBHSの論文にある擬ポテンシャルの局所部分に関して の表の値(Vcore)に対応。c1はc1+c2=1である。A、Bとあるのは 対応するVcoreのパラメーター毎にポテンシャルがある。上記に掲げた以外の ポテンシャルはs、pのみが非局所になっていて、dポテンシャルが局所的 (ローカル)になっている。パラメーターのとり方は任意であるが、そのため の詳細は本論(ロ)のデータの内容のところを参照して欲しい。
”(*)”は、(7/29、1998)に修正されたことを意味する(ゴース トバンド回避のため)。またA、Bと2種類あったものも1種類に統一した (除くCo)。
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小林一昭
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